光のもとでⅡ
 髪を乾かして服を着替えて――はないか。ここならルームウェアのまま来るだろう。
 ふと、テーブルに放った携帯に目をやる。
 約束を反故にされたりして……。
 さっきの電話の雰囲気からすると、あり得なくはないことだ。しかし、そんなことは問題になり得ないと気づく。翠が来なければ自分が行けばいい。ただそれだけのこと。
 サンドイッチが載っていたプレートを洗い終えたとき、インターホンが鳴った。
 玄関のドアを開けると、膝丈のワンピースにレギンスを合わせた翠が立っていた。
「いらっしゃい」
「これ、お菓子」
 おずおずと差し出されたのはきれいにラッピングされた包み。きっと中身はフロランタンだろう。
「そのまま持ってきてくれてよかったのに」
 反する言葉が返されるかと思ったが、翠は何も言わずに俯いた。
「……悪い。上がって」
「お邪魔します」
「何か飲む?」
 靴を揃える翠に尋ねると、
「ハーブティーある? あるなら自分で淹れるよ?」
 いつも目を見て話す翠が俺を見なかった。
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