光のもとでⅡ
 もっと近く……とは言っても、俺は翠のすぐ隣に座っていて、間は二十センチくらいのスペースしかない。その間を埋めてもいいか、と問われているのか。
「別にかまわない」
 翠は手をつないだままにじり寄るように移動して、俺の左半身にピタリとくっついた。
 つないでいない方の袖で涙を拭い、「絶対逃げない?」と再度訊かれる。
「逃げない。……でも、理性の保証もない」
「……なくてもいい」
 聞き間違い? それとも幻聴……?
「……側にいたい。ずっと近くにいたい。もっと近くにいたい……」
 俯いたまま口にする翠の膝に、ポタポタ、と涙が落ち染みが広がる。
 抱きしめてもいいだろうか――。
「翠……もっと近くって?」
「……本当に逃げない?」
 今度は顔を上げて訊かれた。翠の大きな目からは涙がボロボロと零れる。
「逃げないけど――」
 答えた瞬間に翠が身を反転させ、俺の上半身に腕を回した。――つまりは抱きつかれた。
 翠の身体は小刻みに震えていた。
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