光のもとでⅡ
「嘘つき……」
 ばつが悪く顔を逸らそうとしたとき、
「……キス、して?」
 え……?
 聞き間違いかと思って翠を凝視する。と、
「キス、して?」
 涙を湛えた目は、真っ直ぐ俺を捉えていた。
 今まで、衝動でキスをすることがあっても、翠に求められたことはなかった。
 俺は誘われるように翠の唇に自分のそれを重ねる。唇を離して翠の顔を見ると、翠は真っ赤な顔で俯いた。
「……好きっていう気持ちがたくさんで、どうしたら伝わるのかがわからないの。でも、キスしたら伝わる気がして……」
 言ってすぐ、今度は翠が俺から離れようとする。
 さっきは自分から離れたいと思ったくせに、今離れられるのは嫌で、離されかけた右手を加減なしに引き寄せた。翠はバランスを崩し、再度俺の腕に収まる。
 腕の中で縮こまる翠に唇を寄せ、思う。衝動でキスをする分には悩まないのに、と。
 今まで、その場に任せてキスをしてきた。今だって然して変わりはしない。それでも、多少は状況が変わっただろうか。
 今、初めてキスを乞われた。
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