光のもとでⅡ
「あの、バングルのことは私もすっかり忘れていて、でも、待ってっていうのはそういうことじゃなくて――」
 なんと説明したらいいのか、と頭も目もぐるぐると回り始める。よほど見ていられなかったのか、ツカサは近くに膝をつき、
「まずは深呼吸……」
 と、猫背になっていた背を正し、呼吸のコントロールを始めてくれた。
 数分も経つと、身体症状的にはだいぶ落ち着いた。酸素が入ったからか、まるで使いものにならなかった頭も、だいぶ回復したように思う。それでも、まだ言葉を発するには至らない。
「言ってほしいって言われたから言うけど、俺はキスもしたければ翠に触れたいとも思ってる」
 ……本当だ。言われたところで困るだけだった……。
 でも、私だって立ち止まっていたいわけではない。
「ツカサ、もう少しゆっくりがいい……。玉紀先生が仰っていたの。こういう欲求は女子より男子のほうが衝動的だって。その意味を今身をもって知ったのだけど、私は……もう少しゆっくり進みたい。まだ、キスをして抱きしめられるだけでいっぱいいっぱいなの。だから、それに慣れるまで、もう少し待ってもらえないかな……」
 ツカサは私の目をじっと見ていた。
「ずっとこのままがいいって言ってるわけじゃないの。ただ、もう少し待ってほしい」
 前回こういう話をしたときよりも、自分の気持ちをしっかりと提示できた気がした。でも、ツカサはどう思っただろう……。
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