光のもとでⅡ
「翠葉ちゃんには平常時のバイタルをループさせる方法を教えてあるけど、忘れているか、もしくは設定する余裕もなかったのかと思って。とりあえず、翠葉ちゃんが覚えているか確認してもらえる?」
 部屋に戻って翠を見ると、ひどく情けない顔で「覚えてる」と口にした。若干涙目なのは気のせいではないだろう。
 玄関に戻り、
「その方法、俺も知りたいんだけど」
 秋兄は悠然と笑い、
「それは俺が教えられることじゃない。知りたければ翠葉ちゃんに訊きな。用件はそれだけ」

 玄関のドアが閉まり、やらかした、と思った。思わず、その場に座り込みたいくらい、申し訳ないことをしたと思った。
 部屋へ戻ると翠が携帯を握りしめていた。
「悪い……バングルのこと忘れてた」
 翠ははじかれたように顔を上げ、
「あの、バングルのことは私もすっかり忘れていて、でも、待ってっていうのはそういうことじゃなくて――」
 いっぱいいっぱいなのが目に見えてわかる。挙句、呼吸まで不規則になっている。
< 485 / 1,333 >

この作品をシェア

pagetop