光のもとでⅡ
「失ったと思ったものは、あると思っていた未来。得たものは子ども。それから、楓さんとの未来」
 少し気になる物言いだった。
「失ったと思った、というのは……?」
「私、ウィステリアホテルのキッズルームに就職が決まっていたの。だから、子どもができなければ新社会人として働いていたわけよ。その未来がなくなったと思った。でも、実際は少し先送りになっただけだった」
 少し先送り……?
「翠葉ちゃん、私、何も失ってないよ。勉強はいつだってできるし、就職だってそう。この子が生まれて少ししたら就職する。そういう意味では、得たものはあっても失ったものはないの。少し回り道をしているだけ」
 プラス方面への発想の転換が果歩さんらしいと思った。
「それから、私が言っても真実味が薄いんだけど、避妊法として推奨されているくらいにはゴムでの避妊って有効なわけ。数にしたら九十五パーセントだよ。だから、そんなに子どもができたときのことばかり考えなくて大丈夫」
 確率を提示されて、すっかりそんな数字を忘れていたことに気づく。
 私が考えていたのは保証されていない五パーセントの部分だった。
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