光のもとでⅡ
「改めてよろしくっ! 俺もピアノ弾くんだ。今度連弾しよう」
 突如目の前に差し出されたのは聖くんの大きな手。
 私はその手を見ながらコク、と唾を飲み込む。
 初対面だけど、「怖い人」という印象はない。それに、佐野くんの従兄なのだ。怖い人のはずがない。
 こういう見方は本人を直接見ているわけじゃない、とツカサに指摘されたことがあるけれど、それに関しては、今は目を瞑ってもいいだろうか。
 佐野くんというフィルターを通してなら、佐野くんという保険を得てなら、握手ができる気がする。
「御園生さん……?」
「あ、ごめんなさい。大きな手だな、と思って……」
 私はごまかしにもならないようなことを口にして、聖くんの手を取った。
 聖くんの手は大きくてあたたかい。ツカサの手よりも柔らかくて、感触だけなら蒼兄の手に似ている。違うところは蒼兄の手よりも白いところ。
 そんな確認をしてから、
「よろしくお願いします。でも私……連弾はしたことがなくて……」
「そんなの関係ないよ! やってるうちに楽しくなっちゃうからさ!」
 やっているうちに楽しくなる……か。それは去年の紅葉祭のステージと同じような感覚だろうか。
 去年のことを思い出していると、私をじっと見る目に気づく。
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