光のもとでⅡ
「翠……距離を置かないための予防策」
「予防、策……?」
 胸から離れ顔を上げた翠の頬は、涙に濡れていた。そんな顔を見ながら、
「キス、したいだけさせて。……キスだけは、俺の好きにさせてほしい」
 翠は空ろな目でコクリと頷いた。
「翠、携帯貸して」
 翠ははっとした様子ですぐに携帯を渡してくれた。
 俺はバイタルの設定を変えるとテーブルに携帯を置き、翠の元へ戻る。
 不安そうに見上げてくる翠の額にキスを落とし、次は涙に濡れる目の縁、瞼、自分の指先に触れた耳たぶ、首筋――息を止めているふうの唇に移動してからは、本能のままに口付ける。すると、何を意識するでもなく、自身の舌を翠の口腔内へと割り込ませていた。
 初めて、翠の内側に触れた。
 柔らかくてあたたかくて――翠の内側に触れたいと思っていた自分に気づくには十分だった。
 気づいたときには自分の息も上がっており、翠をベッドに押し倒していた。
 これ以上のことはしない。翠を裏切るようなことはしない。
 それだけは何がなんでも守る心づもりで口にした願いごと。
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