光のもとでⅡ
「……そう」
『うん……』
 会話はそれで途切れてしまう。
 いつもなら、「通信機器」であることを指摘するわけだけど、「天気予報」を持ち出されたらそこをつくこともできない。
 俺たちにとって「天気予報」とは、言わばコードネーム的なもので、「話す事柄はないけれど、声が聞きたい」そんなときに使われるものだから。
 ニュースの話でも、自分の教習の話でもなんでも良かった。それでも、「今日」という日にかかってきたのなら、やはり「海水浴」に関することを訊くべきかと思い話題を振る。
 行ったとわかっていながら、
「今日、海水浴行ったの?」
『行ったっ』
 どうしたことか、やけに大きな声が返ってきた。
 それほどまでに緊張しているのもどうかと思う。
 そんなことを考えつつ、翠が海に行ったとして何をしているのか、という疑問に行き当たる。
 ……激しい運動はできないはずだけど、波間に浮かぶくらいのことはできるのだろうか。
 そんなふとした疑問から、
「そういえば、翠って泳げるの?」
 問いかけから数拍置いて、
『ツカサには知られたくなかったのに』
 実に残念な声が返ってきた。
「あぁ、泳げないんだ?」
『でもっ、今日、浮けるようになったし、息継ぎはできないけど泳げたものっ」
 必死になって口にしている様が目に浮かぶ。
< 664 / 1,333 >

この作品をシェア

pagetop