光のもとでⅡ
「何に対して?」
『……私に対して』
 意味はすぐに理解した。けど、
「ものすごく色々あるんだけど。何、それ、今言ったら全部どうにかしてくれるの?」
『えっ?』
「前からくどいくらいに言っているのに、相変わらずうっかり立ち上がるのとか、気づいたら発熱してるのとか、風邪が治ったかと思ったそばから違う風邪引いてたり、気をつけろって言ってるのに熱中症になってたり。翠の頭は自分の健康における学習能力が低すぎやしないか?」
 テンポ良く、言いたいことを連ねて少しすっきりした。けれど、電話の向こうの翠はだんまりだ。
 あまりにも空気が重いから冗談を口にしたつもりだけど、翠にはそんな冗談すら通じない。だから、俺は冗談であることも口にしなくてはいけなくなる。本当に翠には甘いと思う。
「っていうのは本当だけど冗談。翠が知りたいのはそんなことじゃないんだろ?」
 またしても無言。俺はわかっていながら、
「秋兄のこと?」
 さらなる沈黙にどうしてやろうかと思う。
 今、俺たちが手にしているものは通信機器で、「伝える」という行為をしないとまるで意味を成さないものなんだけど。
「沈黙は肯定だから。……でも、この話は帰ってからにしよう。電話じゃなくて、会って話したい」
『……わかった。あと九日間がんばってね』
「あぁ。じゃ、おやすみ」
 携帯を切ってベッドに転がる。
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