光のもとでⅡ
 キッチンへ向かった翠に追いつき、翠の身長では到底届かない場所に置いてあるハーブティーの缶を取ってやる。と、
「ありがとう」
「どういたしまして」
 毎回のことなら、翠の手が届く場所に移しておけばいいこと。だけど、俺はあえてそうしない。
 うちに来るたびにお茶を淹れたがる翠に、毎回必要とされたくて。
 いつものように翠の後ろ姿を見ていた。けど、どうにもよろしくない。
 たかだか二週間離れていただけなのに、今だってさして広くもない一室にいるのに、翠に触れていたくて仕方がない。
 結果的には翠に腕を伸ばし、再度腕に閉じ込めてしまった。
 こんなにも簡単に腕に閉じ込められるからこそ不安になる。秋兄の前でも同じなのか、と。
「暑いんじゃないの?」
 他意を含まない声に、
「暑いけど……」
 俺は中途半端な言葉しか返せなかった。
「翠、秋兄のことでいくつか約束してほしいことがある」
「……約束?」
 翠は不思議そうな顔で振り向いた。
「秋兄とふたりきりにはならないで」
 ――格好悪い。こんなことを約束させて縛ろうとするなんて。
 でも、何よりも耐えられないのは、秋兄が翠に触れること。それだけは許せそうにない。
「秋兄を冷たくあしらうことができないのは仕方ないとしても、これだけは守ってほしい」
 翠の目には動揺の色が浮かぶ。それが何を意味するのか――。
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