光のもとでⅡ
 のんびりと歩きながら砂浜に出ると、翠の提案で素足になることにした。
 会話が途切れてようやく、数日前から気になっていたことを口にする。
「……先日した約束、なんで反故にされたのか知りたいんだけど」
 口にするには少し勇気が要った。それがゆえ、つないだ手に少し力が入ってしまった感が否めない。
 どんな言葉が返ってくるかと構えていると、翠が同じくらいの強さで手を握りしめる。
「今までぐらぐらしててごめんね。断言していたのに、ぐらぐらしていてごめんなさい」
 理由を言う前に完全なる謝罪。
 理由を求めて翠の顔をうかがい見ると、
「鎌田くんに告白されたとき、何度告白されても断るって言ったのにね。それは相手が秋斗さんであっても変わらないはずだったのに、どうしてか同じようには考えられなくなっていて、断ること自体が秋斗さんを拒絶することと勘違いしていたの」
「……今は?」
「今は勘違いしてないよ。雅さんとお話をして、秋斗さんの好意を断ることが秋斗さん自身を拒絶することとはイコールにならないって理解したから。そしたら、何をこんなに悩んでいたのか、と思うくらい気持ちが楽になった」
 俺たちのいざこざを雅さんにまで知られたのか、と思う反面、翠に適切な助言をしてくれたらしい人に感謝の気持ちが芽生えなくもない。でも――。
「……それだけ?」
 翠はたったそれだけのことでこんなにも長い間悩んでいたのだろうか。
 じっと翠を見ていると、
「……それだけ、ではないかな」
 そこで言葉を区切るのは言いづらいからなのか――。
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