光のもとでⅡ
「あのね……ツカサが私が着る長ランとハチマキを作ってくれることになったの……」
 場が一瞬しんとして、次の瞬間には悶絶する人や奇声を発する人、口元を覆って赤面する人、様々な人がいた。言った私もちょっと恥ずかしくて顔が熱い。
 そんな中、桃華さんだけが眉間にしわよをせ、
「あの男が手芸? 刺繍……? ……無駄にきれいな作品になりそうで腹が立つわ」
 と吐き捨てた。

 朝のホームルームが終わり一日が始まる。
 授業風景は何も変わらない。けれども、授業間の休み時間になると刺繍を始める女の子は少なくなかった。
 ほとんどの子が赤組のハチマキに刺繍をしている中、ほかの組の刺繍をしている人もちらほらといる。
 共通しているのは、みんな熱心に、そしてどこか嬉しそうに針を刺しているところ。
 そんな様を見ていたら、私も切羽詰った気持ちでするのではなく、心にゆとりを持ち、ツカサのことを考えて一針一針に気持ちをこめようと思えた。

 昼休みになると各班の中心人物が風間先輩のクラスに集まり、各々の進捗状況を報告しあう。それを踏まえて練習のスケジュールを再調整する、ということを何度も繰り返していた。
 それはうちの組だけではなく、どの組も昼休みは有効活用している。そのため、ツカサとのランチタイムはなくなってしまったけれど、毎晩ゲストルームに来てくれるので、とくに不安も不満もなかった。
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