光のもとでⅡ
 キスをしてほしいのもぎゅっとしてほしいのも、自分の心にある願望だ。
 それらの延長戦に性行為があるというのなら、受け入れられる気がする。
 何度となくそんな思いが交錯するけれど、いつだってそれを受け入れることができずに立ち止まってばかり。
 ツカサは待つと言ってくれたけれど、いったいいつまで待ってもらえるのだろう。
 そんな不安に悶々としては、前に進む心構えや努力とは、どうしたらできるものなのだろうか、と悩む。
「……ずっとキスをされなくて、抱きしめてももらえなかったら――」
 そしたら、自分から「してほしい」と望むようになるのだろうか。自分から「してほしい」と言えるようになるのだろうか。
 たかだか一週間くらいでこの様なのだ。少し先の未来など簡単に想像できそうなものなのに、とても難しく思える。でも、試すことはできるかもしれない。何しろ、当分ツカサの家へ行くことはないのだから。
「キスも抱きしめてもらうのもしばらくお預け……」
 それで自分の気持ちがどう変化するのかを見てみよう。
 でも、今日はぎゅってしてもらえた……。
 決して柔らかいものに触れたわけではないのに、とても柔らかなものに包まれた錯覚を起こすのだから不思議だ。
 今日もほのかにメンソールの香りがしたから、きっとお風呂に入ってから来たのだろう。
 そんなことを思えば、次はいつツカサに触れられるだろう、と考える。
「……紫苑祭の後夜祭、かな?」
 何曲か流れるうちのひとつは私が踊れるテンポのワルツだと聞いているし、締めはチークタイムだとも聞いている。
 去年は色んな意味でいっぱいいっぱいだったけれど、今年は別の意味でいっぱいいっぱいになりそうだ。でも、楽しみ……。
 意識しすぎている自分が少し恥ずかしくはある。それでも、ツカサに触れられることはやっぱり嬉しいことだと思うし、その日が待ち遠しくてたまらない。
 意外な理由で紫苑祭がもっと楽しみなイベントに変わり始めた。
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