光のもとでⅡ
「少し横になっていれば治まります」
「すみません……」
「いいえ、気にすることはありません。スローテンポではありますが、たかがダンス、されどダンス、ですね。御園生さんはウォーミングアップとクールダウンを徹底したほうがいいようです。次回からは気をつけましょう」
「はい」
 ソファに横になる翠に、
「刺繍はなんとかなりそうなの?」
「うん。ハチマキの刺繍は終わって、あとはハチマキの形にするだけ。次から長ランの内布の刺繍を始めるのだけど、ステッチはさっき真白さんにすべて教わったの」
「それなら、もうここへ来る必要はないな」
「え?」
「ステッチの部分がクリアになってるなら必要ないだろ?」
「あ、うん……」
「ダンスの練習なら俺が相手をする。土曜日の夜、八時からマンションのスタジオを使って練習しよう。そっちのほうが広いからウォーミングアップもクールダウンも難なくできる」
 一方的に話を進めると、後ろからくつくつと父さんの笑い声が聞こえてきた。
「何?」
 嫌々振り返ると、
「いや、そこまでして御園生さんを独占したいのかと思っただけだ」
「悪い?」
「悪いとは言っていない」
 なら放っておいてくれ。
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