光のもとでⅡ
 昼食を食べ終えるとコーヒーを淹れ、医学書に目を通していた。しかし、いつまで経っても翠が来る気配はない。
 時計を見れば一時半を回っている。いつもなら一時半前には来るのに。
 それからしばらく経っても翠はやってこなかった。
 何かあったのかと思い携帯に連絡を入れれば、どうしたことか、自宅玄関の外からオルゴールの音が聞こえてくる。しかし、その電話に応じる気配もなければインターホンも鳴らない。
 不思議に思って玄関ドアを開けると、携帯を手に持ち座り込んだ翠がいた。
「……何してるの」
「貧血……」
「なんで……」
 さっぱり意味がわからない。
 翠が九階から十階へ移動する際は、階段を使用することが多い。
 軽い運動負荷なら血行が良くなりこそすれ、血圧低下にはいたらないだろう。
 疑問は少し置くことにして、
「立てる?」
「もう少しだけ待って? あと少ししたら立てると思うから」
「わかった。じゃ、かばんだけ預かる」
 翠が立てるようになってからリビングへ誘導すると、気付け薬代わりに冷たいミネラルウォーターを渡した。
「ありがとう」
 翠は数口飲んで息をつく。
 頭の中をさまよう疑問を捕まえ、
「なんであんなところで貧血起こしてたの?」
 翠は急に俯き、何も言葉を発しない。
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