光のもとでⅡ
「なんで無言? 何か言えないわけでも?」
 渋々口を開いても、
「言えないわけじゃないのだけど……」
「じゃ、何?」
 翠はひとつため息をついてから、
「インターホンが押せなくて、押せないうちに十分以上経ってて……」
 貧血にいたる理由は理解できたが、ある意味謎は深まった。
「何やってるんだか」
 何気なく、手近にあった翠の頭に手を置いた。ただそれだけなのに、翠は動揺をあらわにする。
 そんな翠を観察しながら、
「玄関のインターホンが押せなかった理由は?」
「……緊張しちゃって」
「何に?」
「……何に、かな」
 なんとなくだけど……。
「さっき別れ際にした会話が原因?」
 翠は視線を合わせることなく、
「……そうかな? そうかもしれない」
 と、自分の膝に視線を落とした。
 そんな翠の正面に膝をつき、
「確かに翠とふたりきりの空間で自分を律するのは難しい。でも、家に人がいるときや学校ではされたくないんだろ? それなら、テスト勉強やその他でうちにいるときくらいは好きにさせてほしいんだけど」
「何を」という目的語を明確にしなかったのは、「キス」だけだと取られたくないから。
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