光のもとでⅡ
 好きにさせてもらえるのは「キス」だけだ。でも、「それ以上のこと」だって許可してほしい――そんな意味をこめたつもりだけれど、きっと翠には伝わらない。伝わったところで「キス」がせいぜい。それでも翠は恥ずかしそうに顔を赤らめる。
 そろそろ、キスくらいには慣れてほしいものだけど……。じゃないと、いくら経っても先には進めない。
 そんなことを考える俺の正面でうろたえる翠があまりにもいたたまれず、
「その代わり、ゲストルームに行ったときはしないから」
 その言葉を最後に俺はテキストを手に取った。

 勉強が始まれば翠の目にはテキストしか入らなくなる。
 俺が正面に座ってじっと見ていても気づかない。
 そんな状況にはいい加減慣れもしたけど、もう少し意識してくれてもいい気がする。
 ただ、意識されすぎて避けられたり、過剰反応されて何もできなくなるのはごめんだからちょっかいは出さないけど……。
 翠に触れたいという自分の欲求を感じれば感じるほどに思うことがある。
 翠は俺に触れたいと思うことがあるのだろうか、と。
 車の教習合宿から帰ってきたときに抱きしめてほしいと、キスをしてほしいとは言われた。でも、あれは俺のことが好きだから、ということを行動で表しただけで、「触れたいから」ではない気がする。では、「くっついていたい」はどうだろう。あれはたぶん、二週間離れていた時間があったからで――。
 もしかしたら、俺ほどには「触れたい」という気持ちはないのかもしれない。でも、その割には手はつなぎたがる。
 ……しょせん、その程度で満足できる感情なのか。
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