光のもとでⅡ
 もう少し自分を求めてほしい気持ちがあるものの、それを伝える術など知りはしない。
 こんなとき、秋兄ならどうするのか――。
 少し考えて、秋兄を引き合いに出したことが間違いだと気づく。
 秋兄なら、俺のように考えたりはしない。ストレートに「触れてほしい」と翠に伝えるだろう。
 俺とはどうしたってやり方が異なる。比べる対象には不向きだ。
 わかっているのに無意識に引き合いに出す自分をどうにかしたい。
 思わずため息をつくと、
「……ツカサ?」
 翠が顔を上げ、まじまじと俺の顔を見ていた。
「どうかしたの?」
 なんでこのタイミングで顔を上げるかな……。
「いや、ちょっと集中切らしただけ」
 もともと集中などしていなかったし、問題を見てすらいなかった。しかし、翠はそんなことには気づきもせず、「お茶淹れる? それともコーヒー?」などと訊いてくる。
「……じゃ、お茶淹れて」
「うん」
 嬉しそうに返事をした翠は、ゆっくりと立ち上がりキッチンへ向かった。
 いつもならその背を追いかけてキッチンへ行くところ、今日はダイニングからキッチン内を観察するに留める。と、背伸びをして吊り棚に手を伸ばした翠が背後を振り返った。そこにいるはずの俺がいないことに気づくと、キッチンカウンターからこちらをうかがう。
 目が合うと小首を傾げ、
「お茶の缶、取ってもらえる?」
「すぐ行く」
 お茶を淹れるとき、俺がどう動くのかを予測していての行動に笑みが漏れた。
 こういうのはなんだか嬉しい。
 なんてことのない動作に意思の疎通ができている気がして。
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