光のもとでⅡ
 確かに多少見目がいいことは認めるが、……そもそも、かわいいって何?
 自分の好みなるものを考えてみたが、試みたところで理想と思える顔などひとつも浮かばない。
「翠葉、ダンスのとき笑って踊ってたじゃん。それと一緒で大丈夫だって」
 そういえば、この女はダンス競技に出るんだったか……。
 ダンスはほかの競技と採点の仕方が異なる。基礎点に技術点が加点され、さらには表現力なども評価に含まれる。そのため、たいていの組がクラスで一番うまい人間を選出してくるわけだが、御園生佐野ペアに限ってはそのスタンスから外れる。
 御園生翠葉が選ばれた理由は数少ない出られる競技だから。佐野が選ばれたのは、御園生翠葉が普通に接することができる数少ない男子だから。
 どこまでも手のかかる人間だ。
 ほかのペアはダンスの成績がいい人間が選ばれているのに対し、体育の授業にも出ていない人間がダンス競技に出るなど、負けに行くようなものではないのか。
 そこまで考えると、やっぱり厄介な女、という結論に落ち着く。
 思考がまとまったところで御園生翠葉に視線を戻すと、未だ戸惑った表情のまま。
「あんたが笑わないと、次にここを使う組が迷惑被るけど?」
 御園生翠葉は俺の言葉に唇を強く噛み締め、
「……あの、すみません。顔の筋肉ほぐしてくるので少しだけ時間ください」
 小走りで小体育館の裏口へと向かった。その背を追うように、司先輩は御園生翠葉のジャージを持って出て行く。 
「飛翔、少しは言葉選べよ」
 千里の言葉に加え、嵐子からもきつい視線が飛んでくる。けど、俺が言わなければ司先輩が言ったはずだ。
 なんやかやとうるさい生徒会メンバーの言葉を完無視していると、五分ほどでふたりは戻ってきた。
< 894 / 1,333 >

この作品をシェア

pagetop