光のもとでⅡ
「この子、ダンス部の後輩で谷崎彩香(たにざきあやか)さん。実は――」
 静音先輩の紹介を遮り、後ろにいた女の子が前へ出た。
「一年A組ダンス部所属、谷崎彩香です。単刀直入に言います。私、御園生先輩がワルツに出るの、納得がいきません」
 宣言されたとおり、とても単刀直入な申し出だった。
 でも、言われた意味が理解できたところでどんな反応、もしくは対応をしたらいいのかはわかりかねる。
 呆然としている私の隣にいた香月さんが一歩踏み出したとき、香月さんをセーブするように風間先輩が割り込んだ。
「君の言いたいことはなんとなくわかるから、この場は俺に預けてもらえる?」
 風間先輩の言葉に香月さんは頷き、その場から少し離れた。
「さて……何がどうして今その話なのかな?」
 そう口にした風間先輩はいつもと変わらない笑顔だったけれど、表情がどれほど笑って見えても目は笑っていない。
「ワルツの代表を決めるとき――もっと言うなら、姫である御園生さんに出てもらおうって話したとき、俺はちゃんと組全体の意見を訊いたはずだけど?」
 言葉が荒いわけでも乱暴な話し方でもない。それでも、十二分に厳しさを伴う声音にその場がしんとする。
「異議を唱えに来たならだんまりはやめようか? 君の行動で場の空気が悪くなるうえに練習時間が無駄に使われることくらいはわかってアクション起こしたんでしょ? なら、その先を話そうよ。何をどうすれば納得できるの?」
 自分に向けられた言葉ではない。でも、あげつらうように並べられた言葉たちに胸が抉られそうな痛みを覚える。
 こんな言葉が自分に向けられたら、きっと私は何も言えなくなってしまうだろう。
 谷崎さんは――?
 意識が谷崎さんへ向いたとき、谷崎さんは私を見て口を開いた。
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