光のもとでⅡ
 瞬時に視線を外してしまったけれど、私の気持ちを話すのに顔を背けていてはいけない気がした。
 ただでさえ理解してもらうのが難しいであろう内容を、目も合わせずに話したらもっと伝わらないような、そんな気がする。
 勇気を出して視線を戻し、
「そうだね、ツカサの言うとおりだと思う。私が試合に出るわけじゃないし受験をするわけでもない。でもね、大切な人が直面するから知っておきたいっていう想いもあるんだよ」
 ……ツカサのこの表情は、「理解できない」といったものだろうか。
「翠が泣いた理由ってそれ?」
「……そう。でも、もう少し細分化してるかな」
「この際だから全部言ってほしいんだけど」
「……受験クラスの大きな予定は教えてもらえると思ってた。でも、教えてもらうどころか終わっていたし、合格していることすら知らなかった。教えてもらえたところで私ができるのは『がんばってね』とか『おめでとう』とか、ありきたりな言葉をかけることくらいだけど、何もできなくても知っていたかったの。そう思っていたところに、『言う必要あった?』ってツカサに言われて余計に悲しくなっただけ」
 ツカサは口を噤んだまま何も言わない。
「こういうのを価値観の差、っていうんだろうね。……価値観に差がある場合、相手が話している内容を理解できたとしても気持ちまで理解することはできないから――だから、どれだけ詳しく話しても、どれだけたとえ話を並べても、平行線な会話にしかならないと思う」
 なんだろう、これ……。自分で傷口に塩を塗りこんでいる気分だ。
 でも、ツカサの発する言葉でこれ以上悲しくなりたくない。傷つきたくない。
 そう思うと、口が勝手に先手を打ちにいく。
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