光のもとでⅡ
「何?」
「明日、応援に立つことがあったら――写真……撮ってもいい?」
 今日の応援合戦で優勝した組が、朝一番に全校生徒へ応援を送ることになっている。
 おそらくそのことを言っているのだろう。
 でも、なんで写真……?
 理由を尋ねようとしたら、
「……今日の応援合戦、とても格好良くて……写真、欲しいなって……」
 言いづらそうにしていたのは、そんなことを言おうものなら俺が交換条件を出すと思っているから……?
 実際、いつもの俺なら間髪容れずに交換条件を提示しただろう。けど今日は――。
「それで帳消しにできる?」
「え……?」
「今日泣かせたの……。それで帳消しにできるならかまわない」
 翠は何度か瞬きを繰り返し、
「いいの……? 本当にいいの……?」
「……帳消しになるならかまわない」
「なるっ! なるよっ! 帳消しになるっ!」
 一気に花が咲いたような満面の笑みに、感激具合に面食らう。
 俺は照れ隠しに「喜びすぎ」と翠の頭に手を置いたけど、その手を両手で掴んでまで喜ぶ翠がかわいくて少し困った。
 無邪気に喜びすぎだろ……。
「受験」なんて些細な予定まで知りたいと泣いた翠の気持ちを理解するのは難しい。でも、なんてことのない自分の話をしただけなのに、真剣な目で話を聞いている翠は愛おしく思えた。
 ――「知りたい」か……。
 もしかしたら、「受験」や「スケジュール」「結果」なんてあまり関係ないのかもしれない。
 ただ、「相手のことを知りたい」。それだけなのかも……。
 翠が何を考えているのか、何を思っているのか、どうして泣いたのか。そういうのを知りたいと思うこととさして変わらず、「好きな人のことだから知りたい」という単純な欲求だったのかも。
 そんなことがわかったところで、翠が俺の何を知りたがっているのかをすべて把握することはできないだろう。だとしたら、今回みたいなすれ違いがまた生じるかもしれない。
 そのたびに翠のことを泣かせるのかと思えば少しは精進したいわけだけど、それでも傷つけて泣かせてしまうことがあったなら、今日みたいにひとつひとつ解決していきたい。
 ……願わくば、翠が同じように思ってくれると嬉しい――。
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