かあさま

かあさま(5)

幽霊騒ぎもおさまり、令嬢はますます石工にやさしく、甘い言葉を投げ掛けます。市長も、彼女との結婚を望んでいるような口ぶりで、晩餐の席で石工をからかうのでした。


記念碑ももうすぐできあがるというころ、令嬢がきらきらと光る玉のような丸いものを持ってあらわれました。
「あなた、たいへん珍しい玉を手にいれましたのよ。これはわたくしが手ずから磨いてきれいに表面を整えたものですの。この玉に、銘を刻んでくだされば、わたくしの生涯の幸せというものですわ」
「やあ、これは素晴らしい。滑らかだし、重さもよい。あの女神の石像が胸に抱く栄光の玉にいたしましょう」

ちょうど、繁栄の女神の石像のどこに銘を刻むか悩んでいた石工は、ありがたくその玉を受け取ると、最後の仕事にかかりました。


「街の久遠の繁栄を祈念す…母なる女神よ」


最後の文字を刻み終え、女神像に玉を取り付けたとき、石工の肩を冷たい一陣の風が吹き抜けました。


はっと頭をおこすと、そこは一面の廃墟でありました。


令嬢も、助手たちも、心地よいアトリエも、いや街全体が崩れ落ちた廃屋、悪臭を放ち、黒ずんだ屍体の山と化した中、豪華な石像と石工だけが取り残されておりました。
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