かあさま

かあさま(6)

「なんてことだ…」

石工には、その風景に見覚えがありました。それは、幼いとき住んでいた村に「かあさま」がやってきて、大好きだった父親を失い、村全体が、彼と母を残して全滅したときと同じ光景でした。


「おれは…おれは、死んだ街で、幸せの皮をかぶせられた風船をつかんでいた…今それが破裂して、なにも残らず…捨てたものだけがおれのこころに残った…」

石工は、天をあおいで声とも言葉ともつかない叫びをあげました。そうして、五体を地に投げつけ、石に拳を打ち付け続けました。


どれくらい経ったか。彼は、残された道具と、削った玉の破片をポケットに入れ、自分の村に向かいました。死んだ街が幻想を見せているなら、屋敷に現れたあの母親も、幽霊ではなく生きているかもしれない…そこに希望の灯火が宿ったのです。


しかし、村はやはり廃墟でした。なにもかも「かあさま」に連れられ、今はこの世ではないどこかに住む者となっていました。


自宅に近づくと、母親を置いていったあの家から、老婆が出てきました。
「あれまあ、あんた」
老婆は憎々しげに吐き捨てました。
「あんたは、自分の母親を置いて逃げた人でなしだよ。しかもひとに押し付けてさ」
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