全部、抱きしめて
「あの時?」

あたしは首を傾げた。
新井さんは、ハッとしたように口を噤んでしまった。

「大瀬良さん、何かあったんですか?」

みさきちゃんが聞く。
新井さんはため息を一つついて、辺りを見回した。

昼休み中という事もあってか、まだ人は居ない。

人に聞かれちゃいけないような内容なんだろうか?

そんな思いが過ぎり、心臓がヒヤッと音を立てた。


「大瀬良くん、何年か前に取引き先の社長さんと不倫してたんじゃないかってーー噂があったのよ」

「不倫...」

あたしは誰に言うわけでもなく呟いた。

浮気が原因で離婚とつながっている話だと確信してしまった。
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