全部、抱きしめて
新井さんは続けた。

「あたしはその頃、営業課の事務をやってたから、大瀬良くんを近くで見てたけど、変な噂と離婚のショックで毎日落ち込んでた」

あたしとみさきちゃんは、共に無言になってしまった。

そして、ふと思い出してしまった。
何年か前に、取引き先の社長さんと不倫して担当外された営業マンがいる。

そんな噂を耳にした事があった。

営業課の誰かまでは知らなかったけど、まさか直也だったなんて......。

「あのでも、不倫したとかデマなんですよね?」

聞きたかった事をみさきちゃんが聞いてくれた。

「そうね。デマだと思う」

新井さんがそう言った時、 社員数人が事務所に入ってきて、この話は中断する事になってしまった。
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