全部、抱きしめて
「あたし達、会社では顔と名前を知っている程度だったもんね。世間話なんてした事なかったし」

「オマエそんな奴をよく気軽にご飯に誘ったよな」

「そうだね」

我ながら、あの時は驚いた。

「由里子、失恋してボロボロだったんだよな」

「あの頃が懐かしい」

タケルに婚約破棄され、お先真っ暗な状態だった。

将来に希望が持てなかったし、自分には魅力ないと数え切れない程の涙を流していた。

「そういえば、由里子の元カレって年が明けたら、仕事で転勤するんだったよな?」

「あっ......。うん」

年明け最初にする会話の中に、タケルの話題が出てくるなんて。

実はタケルは仕事で異動なり、今年1月頭にはこの地元からいなくなる。

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