全部、抱きしめて
買い物を済ませて帰る途中、道が混んでいた。
歩道を歩く人たちに浴衣姿の人たちがちらほらいる。
「あっ。今日、夏祭りだな」
大瀬良さんが思い出したように言う。
「そういえば...。そうですね。この辺で一番早い夏祭りなんですよね」
あたしも思い出した。
後輩のゆかちゃんが、浴衣を買ったのに友達も彼氏も仕事で夏祭りに行く相手がいないと嘆いていた。
道が混んでいるのは、交通規制がかかっているせいだろう。
「夏祭り行こうか? オレんちからなら歩いて行ける距離だし」
「......」
「行く気しない?」
「そんなことないです。行きましょう!」
これが大瀬良さんと一緒に行く最初で最後の夏祭り。
うまく断れなくて返事をしてしまった。