全部、抱きしめて
「こっちの方が近道なんだ」

「へぇ。地元の人じゃないと分からないような道ですね」

今、歩いているところは、人気もなく街灯すらない。

“人混みにはぐれないように”
そんな理由で手を繋いでいたはずなのに、家に着くまで繋いでいた手を離すことはなかった。


家に帰ると、まずお風呂に入ろうというということになった。

人混みを歩いたり、暑い中花火を見ていたこともあり汗だくになっていたからだ。

お風呂のお湯が溜まると、大瀬良さんが先に入っていいということで、あたしはバックの中から着替えを出そうとした時、あっ! と、声を上げた。

「どうした? 由里子?」

ソファーに座っていた大瀬良さんがこっちを振り向いた。

「部屋着...」

「忘れてきたのか?」

コクンと無言で頷く。

部屋着、買うつもりでいたことを思い出した。










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