全部、抱きしめて
ようやく、アパートまであと数メートルというところで、ドアの前に誰かが立っていることに気付いた。

その人は...

「大瀬良さん!」

だった。

ロゴTシャツにジーンズ姿。
不機嫌な顔してあたしを見ている。

「おかえり由里子」

「ただいま」

って、なんか変な会話。

「やり逃げとはいい度胸だな」

「そんなんじゃありません!」

自分でも驚くぐらいの大きな声が出た。

「近所迷惑だな。家の中入ろう」

「嫌です。うち散らかってますから。っていうか何しに来たんですか?」

そうだ。本題はこれだ。

「由里子が帰ったから。理由を聞きにここに来た。何が『ありがとう直也』だよ。ふざけるよな」
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