全部、抱きしめて
動揺していたせいか、玄関のドアを鍵なしで開けようとしていた。

「由里子、鍵」

大瀬良さんに言われて、気が付いたくらいだ。

鍵でドアを開けて、玄関先でタケルからの送り物を見るとーー。

香水、DVD、CD、漫画本。
見覚えのある物ばかり入っていた。

一枚、折りたたまれた紙が入っている。
タケルからの手紙だった。


《由里子がオレの家に置いていた物送るよ。これで全部だと思う。タケル》


何、この手紙...。
そっけない内容。事務的な感じがより悲しくする。

そんなにあたしの私物なんて要らない?
しかも、同じ市内に住んでて、わざわざ宅配ってのが更に悲しい。

「...っ」

涙が次から次と溢れてくる。

「由里子」
< 68 / 212 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop