全部、抱きしめて
名前を呼ばれるまで、大瀬良さんの存在を忘れていた。

「嫌だ...。また泣顔見せてしまってすみません」

涙を拭いながら言う。

大瀬良さんは、荷物の中身は何なのかは聞いてこなかったけど、多分気付いているよね?

「そんなの今更だろ? 好きなだけ泣けよ」

あたしは半ベソかきながら口を開いた。

「大瀬良さん、すみません」

「何が?」

「何がって...。色々です。これ以上いられたら、もっと迷惑かけそうです。だから」

“帰って下さい”

この一言が言えない。

「迷惑だったら、オレはここまで追いかけて来てない。だから帰れなんて言わないでくれ」

大瀬良さんは分かっていた。
まるで、心の中を読んでいたみたい。
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