恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②
――こんなに可愛い人を嫁さんにできたなんて、俺は何て果報者なんだ…!
古庄は車のハンドルを握りながら、ただただ自分のその幸せを噛みしめた。
もちろん真琴は、一目で男を虜にさせるような美人ではない。
そんな風に、一目で真琴に惚れてしまったのは、古庄くらいのものだろう。
けれども、真琴と一緒にいてその内面を知れば知るほど、人柄が醸し出す可愛らしさを感じられる。
古庄は一目で、それを見抜く力があったということかもしれない。
「さあ、どこに行けばいい?」
「坂上市に行ってください。そこからだと、藍沢温泉にも行きやすいですよね?」
「うん、国道で1本道だから」
というやり取りの後、会話が続かない…。
気兼ねの多い職員室を抜け出して、やっと二人きりになれて、いろいろ話したいこともあったはずなのに。
言いようのない緊張感が漂い始め、沈黙が車内を支配した。
――これから誰と会うの?
古庄は何度もこの質問をしようと真琴に視線を向けたが、彼女が抱える重苦しい表情に圧されて、とうとう口を開けなかった。
――…俺、何か悪いことしたかな…?怒ってるのか…?
そんな不安が古庄の思考に過って、心当たりを必死で検索する。
けれども、この車に真琴が乗り込んできたときに見せてくれた微笑みを思い出して、その不安を振り払った。
こんな時、古庄は改めて、自分が女性の扱いに慣れていないことを実感する。
思い返せば、自分から女性にアプローチした経験がない。
努力をしなくても女性の方から寄ってこられて、女性の方からいろいろと世話を焼かれることが普通だった。
それに、真琴に出逢うまで、真剣に口説こうと思った女性などいなかった。