恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②
真琴も収穫物を手に、初めての体験をした充実感と共にそれを見守っていた矢先…、
「……あっ……!」
その現実に気付いた瞬間、絶望で目がくらみそうになった。
その尋常ではない声色に、
「…何?どうした?」
と、古庄の父親も眉を寄せた顔を上げた。
「……コンタクトレンズを落としました……」
手にある自然薯から父親へと目を移した拍子に、側にあった小枝で、目を弾いてしまったのだ。とっさに目は閉じたけれども、その時コンタクトレンズは弾け飛んでしまったらしい。
パソコンをよく使うからか、最近視力の落ちてしまった真琴は、コンタクトレンズを作ったばかりだった。
「…動くなよ!俺が探してやる!!…俺はこういうの、得意なんだ!」
と言いながら、父親は目つきを鋭くして、真琴の足元を凝視する。
そうは言ってくれたが、何もない室内ならともかく、こんな落ち葉で覆われた山の中では見つかりっこない。
誰も責められないこの喪失感は、とてつもないものだった。
真琴は自分では何もできず、自然薯を手に持ったまま半ば諦めつつ立ちすくんでいた。
「…お義父さん…」
もういいです…と真琴が言いかけた時、
「…あったぞ…!」
と、父親は小さなかけらを拾い上げた。
真琴は自然薯を片手に持ち、軍手を外すと、それを手のひらに受け取った。
「……ウソ……!」
手にあるコンタクトレンズをまじまじと確かめて、父親の顔を見つめる。