恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②
姉と一緒に育ったし、女性と付き合った経験もそれなりにあったので、女性には慣れているつもりだったが、好きな人が相手ではどうもうまくいかない。
出逢ったばかりの頃、少しでも真琴に近づきたいと思っていた時には、少しは気の利いたことも話せていたのに…。(実際はほとんど相手にされていなかったけれども…)
どんな言葉をかけて、愛しい真琴の気分をほぐせばいいのか…皆目見当もつかず、古庄は途方に暮れた。
「綺麗な景色ですね…」
古庄がいろいろと考えを巡らせていると、真琴の方から口を開いた。
そうだ…!何も特別なことを話さなくても、こういう何気ないことを話題にすればいいんだと、古庄は目からうろこが落ちる。
車窓には、道路に沿って流れる渓流があった。
秋の清々しい日射しを受けて、キラキラと水面を光らせているのが、爽やかな緑の木々の合間から眺められる。
「うん、緑が爽やかで気持ちがいいね」
「秋が深まって、紅葉しても綺麗でしょうね」
「そうだね。その頃また観に来ようか」
古庄のその提案に、真琴は少し嬉しそうに微笑んだ。
けれども、その奥にある微妙な影が気にかかって、古庄は心の底からこの景色を美しく感じられない。
――…何か、心配事でもあるのか…?
素直で純粋な真琴は、感情がすぐ顔に出てしまう。
本人は必死で隠そうとしても、不自然すぎて却って隠しきれない。
何かあるなら、とりあえずそれを解決してあげないと。
解決できないにしても、少しでも気持ちを軽くしてあげないと。
こんな重苦しい気持ちのままで、大切な今日という日を過ごしてほしくない。
古庄がそう思って口を開きかけた時、
「そこの脇道に入ってください。すぐにカフェがあるはずですから」
と、真琴から道案内された。