恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②
その岩風呂の本格的な様に、真琴は目を見張る。
こんなものまで作ってしまうなんて、古庄の父親は、本当に計り知れない人だった。
母親がいなくなり、真琴は戸惑ったけれども、体中に被ってしまった土を落とさないことには、手伝いもできない。
真琴は先に手早く頭と体を洗い、それから、岩でできた立派な浴槽に身を沈めた。
朝から電車を乗り継いで、駅からは歩いて、そして山では大きな穴を掘って…疲れた体は優しいお湯の中でホッと息を吐いているのに、心はまだ奥底に固まる緊張で解放できない。
そんな不思議な気分で、真琴は目の前に広がるのどかな田園風景を眺めた。
先ほどまで大空を覆っていた真っ赤な夕焼けは、次第に紫を帯びて、遠く連なる丘陵がその中に浮かび上がる。
――こんな景色の中でのびのびと育った人だから、あんなに大らかで優しい人になったんだろうな…
真琴は愛しい古庄に思いを馳せた。
古庄を思い出すと、心がほっと温かくほぐれるのと同時に、募る想いで切なく疼いてくる。
今朝会ったばかりなのに、会いたくてしょうがなくなってくる。
この岩風呂だって、この前旅館に行った時のように、古庄と一緒に入れたなら、どんなに安らげるだろう…。
古庄の優しい家族に囲まれて、どんなに親切にされていても、ただ一人、古庄が傍にいないだけでこんなにも寂しい。
ジワリと真琴の目が潤んできた時、脱衣所への引き戸がガラリと開いた。
瞬時に涙は引っ込み、真琴はとっさに胸元を押さえる。