恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②
「一緒に働いてた時、よくこのカフェに来たわね」
久しぶりのぎこちなさをほぐそうと、静香の方から話題を振ってくれる。
こんな風に気配りをしてくれるのも、かつて真琴が知っている静香と変わらない。
にこやかな表情の奥にも、古庄との結婚が破談になった哀しみなど微塵も感じられない。
ティーカップを口に運ぶ細い指には、ほのかにグラデーションを効かせたネイルが施されている。休日のこなれたファッションも、上品な物腰が加味されて、見事に着こなしている。
細部まで気を抜いていないのは平沢と同じだけれど、静香には嫌味がなく、見る者に心地よささえ感じさせる。
女の真琴でさえ、見とれてしまうほどだ。
近況報告などし合い、他愛のない雑談をしばらくした後、真琴のカフェラテが届けられる。
それを一口含んで、真琴がホッと一息ついたのを確認して、静香は真琴の目を見つめた。
「それで?今日はどうしたの?何か、相談事でもある?」
と、とうとう本題に入るように促される。
真琴は思わず、グッと言葉を呑み込んだ。
これからの展開を想像すると、なかなか勇気が出てこなかった。
でも、古庄をずっと車で待たせておくわけにもいかない。
きちんと話をしないと、わざわざ静香を呼び出した意味もない。
真琴は深く息を吸い込むと、意を決した。
「…私、結婚したの」
まずは短く事実のみを告げると、途端に静香は目を丸くした。
「え…!結婚?!真琴ちゃんが?」
「……うん」
「え~!!ホントに?おめでとう!」
「…あ、ありがとう」
「彼氏がいることも知らなかったから、びっくりよ!!相手は誰?いつ結婚したの?」
「…あ、あの、実は、相手は今日一緒に来てるの。…会ってもらえるかな?」
話をしながら真琴は、あまりに自分の胸の鼓動が大きくて、自分の声さえ聞こえないような気がした。