恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②
「うん!なんだ一緒に来てるの?紹介してくれるのね?嬉しい!!」
静香はほっそりとした指を唇に当てて、真琴の幸せを自分のことのように喜んでくれた。
古庄に会わせると、静香は辛い過去を否が応でも思い出してしまうだろう。
その喜びで輝いている表情を曇らせることになるかと思うと、真琴は胸が締め付けられて息苦しくなった。
けれども、もう後戻りはできない。おもむろにバッグからスマホを取り出すと、手早くタップする。
待たされること10分ちょっとで、古庄の携帯電話が鳴った。
「待たせてしまって、ごめんなさい。2階のテラス席にいるので、来てください」
真琴は手短にそう言うと、すぐに電話を切った。依然として、声色には緊張感が漂っている。
一抹の不安を抱えながら、古庄もカフェへと向かう。
ドアを開けて中に入った瞬間、一身に注目を浴びるのを感じるが、それはいつものことなので気にもかけず、階段を探して2階に上がる。
階段を中ほどまで上った時に、会話が聞こえてきた。
「え~、そうなんだ~。じゃあ、結婚したって言っても、籍だけ入れたの?」
「うん、2週間くらい前だったかな…?」
「うわ~、どんな人なんだろう?真琴ちゃんの相手って…」
真琴の向かいで、そんなことを話していた女性が、古庄の気配に気が付いて目を向けた。
その瞬間、その女性は言葉を潰えさせた。
古庄も息を呑んで、自分の中の全てのものが止まってしまった。
「……芳本さん……」
意識せずして古庄がつぶやくと、静香も思わず立ち上がっていた。
突然の再会に驚いて、二人の視線が複雑に絡み合う間、真琴の中に切ない痛みがせりあがってくる。
かつては、結婚することを約束して指輪も買い、式を挙げるばかりだった二人だ。
真琴には立ち入れない、二人だけにしか分からない世界が、そこにはある。