恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②
こんなに感動している真琴を目の前にして、まさか先ほどの“お仕置き”の続きをするためにここに来たなど……、そんなスケベ心は到底打ち明けられない…。
「……ああ、…うん」
古庄が消極的な相づちを打つと、真琴は満天の星々を見上げたまま、深まった秋の夜の冷たく澄んだ空気を、満足そうに胸いっぱいに吸い込んだ。
「あなたは、こんなに素敵な夜空を毎日見上げながら、ここで育ったんですね。夜空だけじゃありません。山も川も田んぼも、この空気も。こんなに素晴らしいものに囲まれて育ったから…、あなたは大らかで優しくて……素敵な心の持ち主になったのでしょうね」
そう言ってくれた真琴の言葉が胸にじんわりと沁みて、古庄は相づちさえも返せなかった。
何の変哲もないと思っていた故郷の深い自然が、いきなりとても尊いもののように思えてくる。
初めて目を開いてこの星々を見たような気がして、その美しさに古庄の心も震えた。
その時、真琴の唇に温かく柔らかいものが触れ、気が付くと古庄がそっと唇を重ねていた。
真琴が数万光年のかなたから一番近くにある“大事なもの”に目を移すと、その大事なものは穏やかに微笑んでいた。
このキスは、欲求を満たす愛の行為と言うよりも、先ほど、大事なことに気付かせてくれた真琴の言葉に対する感謝の印だった。
二人は手を繋いでお互いのぬくもりを感じ合いながら、再び空を仰いだ。
そのまましばらく、山頂から望める広大な夜空を、時間を忘れて眺めていた。