恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②
静香に配慮して1年間を待つ間、その長さのあまり、古庄はすっかり静香のことを忘れてしまっていた。
古庄にとって静香は、破談になったと同時に関わり合いも終わった相手だけれど、真琴にとっては変わることのない友情を注ぐ相手だった。
律儀で義理堅い真琴は、親友のことをずっと胸に留めたまま常に思いやって、心を痛めていた。
今はまだ秘密にしているこの結婚だが、いずれは職場にも公表する日が来る。
そうして、他人の口からこの事実を知らされる静香のショックは如何ばかりだろう。
だからこそ真琴は、何をさておいても、自分たちの両親よりも先に、静香に報告することを考えたのだ。
「本来なら、芳本さんには俺がきちんと報告しなきゃいけなかったんだ」
古庄が静かな声で語りかける。
1年前の経緯からも、それは自分が果たさなければならない責任だった。
静香とのことはもう過去のことだと忘れていたけれども、真琴と結婚するときに思い出すべきだったのだと、自分の不甲斐なさを古庄は悔やんだ。
そうすれば、真琴にこんな思いをさせることもなかったはずだ。
静香はそれでも、しばらくは何も発しなかった。
自分の中の衝撃を、何とかして整理しようとしているのか、思いの含んだ眼差しで、真琴と古庄をかわるがわる見遣った。
そして、目の前に置かれている自分の分の紅茶を飲み干すと、思い切ったように口を開いた。
「私…、知らないところで、真琴ちゃんに辛い思いをさせてたのね…。ずっと古庄さんのことを好きだったんでしょう?」
自分の心を吐露するのではなく、静香は逆に真琴を思いやって言葉をかけてくれる。
真琴はそれを聞いて、古庄が静香と結婚するとばかり思っていた、切なく苦しい頃を思い出した。
胸が苦しくなって、涙が込み上げてくる。