恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②

 
 
でも、今日は自分が泣く日ではない。静香には、もっと辛い思いをさせてしまっている。


そう思って、やっとのことで涙を堪えたが、真琴は何も言葉を返せなかった。



「古庄さんを見て、好きにならない女性はいないものね……」


自分自身を納得させるように、静香は寂しい微笑みをたたえる。


静香は、真琴が古庄を好きになり、古庄がその想いに応えた…という一般的な構図を想像しているようだ。


「…いや!違う。そうじゃない。一目見て惚れてしまったのは、俺の方だ。真琴は、俺の顔だけを見て好きになるような女じゃない」


古庄は静香の想像を、そう言って即座に否定した。


静香は少し驚いたように古庄を見返し、それから真琴へと視線を移して、再び微笑みかけた。


「…そうね。真琴ちゃんは、そんな人よね。相手が古庄さんだけじゃなく、女性でもどんな相手でも、その人の本質を知ろうとする人よ。そんな真琴ちゃんだから、古庄さんも好きになったわけね」


静香がそう語る間も、それを肯定するように古庄は深い眼差しを真琴に捧げるが、真琴は黙ってただ静香を見つめている。


「……私は…、やっぱり古庄さんのこと、表面しか見てなかったのよね。だから、婚約を破棄したいって言われるまで、古庄さんが何を思ってるのかなんて、私は考えもしなかった…」


静香との婚約を破棄するとき、古庄は詳しい理由を告げずにただただ頭を下げ、それに対して静香は了承しただけだった。

その当時、語られることのなかった静香の心情を聞いて、古庄は真琴から静香へと視線を移す。


「一人で浮かれて、自分が綺麗に見えるための準備をあれこれして…。誰もが憧れる古庄さんを自分だけのものにできるのが、嬉しくて…それだけだった。本当に古庄さんのことを想ってたら、古庄さんにその気がないことなんて初めから解っていたはずだと思う。……だけど、古庄さんに切り出されたとき、妙に納得できたのよ。『ああ、やっぱりダメだった…』って」




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