恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②
古庄の結婚という衝撃の事実を知っても、冷静で余裕さえあった静香の表情が歪んだ。
「…バカね!待つことなんか、なかったのに!」
何かを堪えるように目を伏せると、涙が零れでる。
「確かにその時はショックだったけど、1年間も引きずるほど傷ついてなかったわ…」
自分たちが早く幸せになるよりも、自分の心の傷を思いやってくれた真琴と古庄の気持ちに、静香の心が揺さぶられた。
泣き顔を見られまいと、静香はテラス席のちょうど目線の先に広がる爽やかな木々の梢を眺めるふりをする。
古庄が婚約の破棄を告げた時には一滴も流れ出なかった静香の涙が、今はとめどもなく溢れ出ている。
その静香の涙を見て、古庄は真琴と静香の絆の深さを思い知った。
1年間はとてつもなく長い時間に感じられたけれども、真琴の誠意を尊重して待っていてよかったと、改めて思った。
涙をハンカチで押さえ、気を取り直した静香が真琴と古庄に向き直る。
「…わざわざ報告してくれて、ありがとう」
それを聞いて、真琴は再び首を横に振る。
「ううん、これは私たちがきちんと生活を始めるための、ケジメだから」
静香は鼻から息を抜いて、笑った。
「真琴ちゃんは、相変わらず律儀で真面目ね。…でも、そんなところにも古庄さんは惹かれたのね」
「その通りだ」
曲りなりにも元婚約者の前で、古庄は臆面もなく即座に同意した。
その素直な想いと率直な表現に、静香は思わず絶句する。
真琴と古庄を見ていると、まるで想いが通じ合ったばかりの中学生のカップルのような気がして、静香にもっと笑いが湧きだしてくる。
その笑いの意味が分からず、古庄と真琴は顔を見合わせた。
けれども、静香は笑ってくれた。
そのことに少し安心して、二人は安堵の視線を交わした。