恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②
カフェを出てから、静香と二言三言言葉を交わし、手を振ってそれぞれの車へと向かう。
真琴が古庄の車の助手席に乗り込もうという時、思い立ったように静香の車の方へと駆けていった。
突然の真琴の行動に、古庄も目を見張る。
「静香さん!」
今まさに車のドアを開けようとしていた静香に、真琴が声をかける。
静香は驚いたような表情を見せて、振り返った。無言だが、真琴の目を捉えて、応えてくれている。
真琴は躊躇するように一旦唇を噛んで、口を開く。
「これからも友達でいてくれる?」
この一言を聞いて、弾かれたように静香は笑顔になった。
「バカね!当たり前じゃないの!」
静香は、今にも泣き出しそうな真琴の顔を見つめながら、まるで妹を慰めるみたいに真琴の髪を撫でた。
「古庄さんはモテるから気苦労も多いかもしれないけれど、幸せになってね。その幸せを私に見守らせてね」
その胸には複雑な感情が渦巻いているに違いないのに、真琴の心配を払しょくし、祝福する言葉をかけてあげられる…。
静香はしっかりとした大人の女性だった。
静香の車が走り去った後も、その場で佇む真琴を、しばらく古庄は見守っていた。
おもむろに背後から歩み寄り、真琴の顔を覗き込む。
「真琴……」
真琴の頬には幾筋もの涙が伝っていた。
その涙顔のまま、真琴は古庄を見上げる。
「静香さんの前では、泣いちゃダメだって思ってたの」
「うん……」
「静香さんの方が辛い思いしているのに、私が泣くなんておかしいでしょう?」
その問いに相づちも打たず、答えの代わりに古庄は真琴を抱きしめた。
真琴の顔を自分の胸に押し付けて、その涙をシャツで拭う。