恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②
真琴のぎこちない態度は、仲居との会話のせいか自分と二人きりになったからか判然としなかったが、古庄は気を取り直すことにした。
「それじゃ、そろそろ風呂に入るかな」
けれども、古庄の提案に真琴はギクリと肩をこわばらせた。
それに気づいた古庄は、真琴の懸念を即座に否定する。
「もちろん、男女別の大浴場に行くんだよ。そっちの露天風呂は川の横にあるらしいし」
真琴は少し安心した面持ちで一つ頷いたが、古庄と目を合わせようとはしなかった。
落ち着かなげに立ち上がり、押し入れから二人分のタオルや浴衣を出して、温泉に行く準備を始めた。
そんな真琴の様子を、しばらく黙って見守っていた古庄が、思い切って口を開く。
「……真琴。俺はいつだって、君の望んでいないことはしないよ」
真剣な口調で語りかけられたのを聞いて、真琴は逸らしていた目を古庄に合せた。
何のことを言っているかは、すぐに察しがついた。
何と答えていいのか判らず、ただ黙って古庄を見つめ返すことしかできない。
「君は俺の命よりも大切な人だ。俺の願望を優先させて、君を傷つけたくない」
古庄は優しく深い眼差しを注ぎながら、静かな声でそう言った。
穏やかに発せられた古庄の言葉は、その響きとは対照的に熱い矢となって真琴の胸を貫いた。
――…あなたに愛されて、傷つくはずなんてない…!!
心の中ではそう叫んでいたが、突然大きくなった胸の鼓動に阻まれて、そんな真琴の思いは何も声にはならなかった。
傷つきはしないけれども、そんなにまで深い想いとともに見つめられると、呼吸さえもままならず苦しくなってくる。
その感覚に耐えるように、真琴は抱えたタオルと浴衣に顔をうずめた。