恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②
「こんばんは…」
その時、ずいぶん年配の女性が湯船へと入ってきた。
真琴も頭をもたげて、会釈をする。
「まぁ、綺麗だこと。もうここは、少しずつ紅葉が始まってますね」
そう話しかけられて、真琴もライトアップされた木々を改めて眺めた。
「山深いから、朝晩は冷えるんでしょうね」
すでに黄色や赤に色づきつつある葉っぱを見遣りながら、相づちを打つ。
「あれは、何の木かしら?ずいぶん色が変わってるけど…」
「…多分、桜だと思います」
「まあ、桜?お花だけじゃなく、紅葉も楽しめるのねぇ」
その女性の言葉を聞きながら、真琴は桜野丘高校のしだれ桜を思い出す。
あの桜も、淡く黄色に葉の色を変え始めていた。
絢爛に咲き誇る桜の下に佇む古庄の姿が目に浮かぶ――。
そして、生涯忘れないと心に刻んだモザイク画の前の古庄の姿も――。
その像を確かめるように、真琴は目を閉じた。
あのプロポーズをしてくれた時、真琴は古庄に宣言したはずだ。
古庄のためだったら、どんなことだってすると――。
あの時の決意を思い出すと、真琴の中に勇気が生まれ、力が湧いてくる。
真琴は覚悟を決めた。その覚悟を表すように湯船から立ち上がると、体を洗い始めた。