恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②
頭の横に肘をつき、再びキスをしようと寄せられた古庄の表情を見て、真琴は硬直した。
いつも真琴に向けてくれる、微笑みを湛えているような柔和な表情はそこにはなく、真剣を通り越して、険しく心の底まで射抜くような眼差し。
初めて目にするこの表情を見た瞬間、真琴は急に怖くなった。
全身に震えが走り、隠しきれず、重ねられている唇にもそれが伝わってくる。
この震えに気が付いた古庄が、頭をもたげた。
「……怖い?」
密やかな声を聞いて、真琴は目を開けた。
心の中を言い当てられて、真琴の鼓動がいっそう激しく打ち始める。
けれども、ここで「怖い」と言ってしまったら、古庄は真琴のために止めてしまうだろう。
今、古庄が求めているのは真琴自身で、古庄のためにそれを捧げることは、真琴にとって喜び以外何ものでもないはずだ。
「…怖くはありません。ちょっと、緊張して……」
古庄の顔を見上げながら、真琴は敢えて笑顔を作った。
その笑顔を見て古庄は少し表情を緩めたが、唇を噛んでまだ険しさを漂わせる。
「……俺は、怖いよ。こんなに心の底から好きになった人を抱くのは、初めてだから……」
この言葉で、真琴の中の「怖い」という気持ちは消えた。
胸が切なく絞られて、目の前の古庄が愛しくてたまらなくなった。
真琴は腕を伸ばして、古庄の顔を両手で包み込むと、そっと引き寄せてキスをする。
「大丈夫……」
キスの合間に、真琴が囁く。
「うん……」
キスを繰り返しながら、古庄も呟いた。
それから真琴は鼻先から足の指まで、古庄のキスで体中を埋め尽くされた。
古庄の愛撫がもたらす圧倒的な感覚の中に身を置いて、気が遠くなる。このまま古庄の腕に抱かれて、死んでしまってもいいとさえ思った。