恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②
週末婚
小鳥たちの歌で、うっすらと目を開けた真琴は、虚ろな意識の中でいつもと様子が違うことに気が付いた。
見慣れない調度品と、素肌に擦れるシーツの感覚。
現実にハッと気が付いて、真琴は起き上った。
隣にいるはずの古庄は、すでにそこに姿はなかった。
昨晩、窓辺で脱いだままになっていた浴衣を手早く身に着けて、キョロキョロと古庄の気配を探す。
すると、昨日はしなかった水音が外から聞こえてきたので、内風呂から外に出られる戸を開けてみる。
「おはよう。寝ぐせの付いてる真琴も可愛いなぁ」
露天風呂に入っていた古庄が、真琴を一目見てそう言った。
真琴は朝の挨拶どころではなく、赤面して思わず頭に手をやった。
「真琴も一緒に入ろう。気持ちいいよ」
臆面もなく誘われて、真琴はグッと少しためらった。
けれども、昨晩は自分から脱いでおいて、今更恥ずかしがるのも変な話だ。
それに、この体のことは、隅々まで古庄に知られてしまっている。
真琴は素直に応じて、浴衣を脱ぎ、かけ湯をするとお湯の中に身を沈めた。
露天風呂の横の竹垣には、夏の名残りの朝顔が花を咲かせている。
お湯の温かさが体に沁みてきて、心も体も解放され、ホッと和んでいくのが分かる。
目の前には、真琴のその様子を見守り、微笑んでくれる愛しい人もいる。
真琴は、今ここにあって感じ取れる幸せの全てを噛みしめた。
これからどんなに辛いことがあっても、この朝のことを思い出せば乗り越えられると思った。
「これからのこと…、考えとかないといけないな」
同じことを考えていたのだろうか…。
そう持ちかけられて、真琴は木々の梢を渡る風から露天風呂に向かい合って座る古庄に目を移した。