恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②
何でも「普通」や「人並み」や「無難」であることが幸せだと思っている賀川家の人間の感覚からすると、古庄の容貌は常軌を逸していた。
ソファーに横たわる父親の体の上に毛布を掛けて、真琴と古庄がホッと一息ついた時、
「お茶を淹れ直したわ。こっちへいらっしゃい」
と、母親からダイニングの方へ手招きされた。
「ありがとうございます。どうぞ、お構いなく」
古庄から律儀にそう言われて、母親は改めてその顔をまじまじと眺めた。
こういう視線には慣れているとはいうものの、やはり自分の義母になる人からのものは緊張する。
普段はお茶の飲み方なんて気にしたことのない古庄だったが、柄にもなく「作法」のようなものを意識して、当然その美味しさなんて味わえなかった。
真琴の母親は、上品な感じの清楚な人で、嫌味がなく上手に年を重ねている印象を受ける。
きっと真琴は、この母親を模範に成長して大人になっていったのだろうと、古庄は想像をめぐらせた。
「夢を見てるんじゃ、ないわよねぇ…。」
母親はため息を漏らしながら、つぶやいた。
「…え…?」
向かいに座る母親は、真琴と古庄から同時に見つめられた。
「ああ、ごめんなさい。古庄さんがあんまり素敵だから…」
そう言いながらひきつった笑いをした母親の中に、同じような表情をする真琴の面影を見て、古庄は自然と口角を上げた。
その優しげな顔を見て、母親の頬は一気に赤くなる。
「…や、やだ。私ったら、年甲斐もなくボーっとしちゃって…」
「お母さんだけじゃないわ。古庄先生を見ると、歳は関係なく誰でも最初はそんな感じよ」
「そうかもしれないけど…」
と、母親は思わず、テーブルに両手をついて立ち上がる。
落ち着かなげに台所を右往左往して家事をしている風だったが、何もすることが見つからず、窮して真琴と古庄に向き直った。