恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②
「和彦さん」
「…お父さんもあんな感じだし、ここにいてもしょうがないから、ちょっと散歩でもしますか?」
ソファーに横たわる父親をチラリと見遣りながら、気を取り直して真琴が提案すると、古庄もそれに同意した。
外は暑くもなく寒くもなく、爽やかな風が吹いて、絶好の散歩日和。
真琴の実家に隣接する緑の多い公園を、行くあてもなく歩いていると、古庄のところにボールが転がってきた。
古庄が拾い上げて、ボールの持ち主を目で探していると、
「ありがとうございます」
と、声をかけられた。
声のした方に振り向いてみたら、小学校低学年くらいの女の子だ。
古庄はニッコリと笑いかけて、ボールを投げ返してあげる。
すると、古庄を見た女の子の顔はみるみる内に赤くなり、小さく頭を下げるとボールを抱えて走って行った。
あんな小さな女の子まで一瞬で魅了してしまう古庄に、真琴は今更ながらに驚いてしまう。
それほど、古庄の魅力は年齢も性別も問わず普遍的で、誰にとっても心地よいものだった。
「きっと君も幼い頃、あんな風にこの公園で遊んだんだろうね」
そんなことを言いながら、古庄の極上の笑顔は真琴だけに向けられる。
その現実を噛みしめると、あまりにも幸せすぎて明日死んでしまうのではないかと、真琴は思った。
「小学生の頃は、ずっとこの公園で遊んでいました。すぐ隣ですから。…そうだ、小学校や中学校もすぐ近くなんですよ。行ってみます?」
「うん。行ってみるとも。君のことは何でも知りたいからね」
真琴の提案に古庄も快く頷いて、それから真琴の卒業した小学校と中学校を、ゆっくり歩きながら訪ねて回った。